3年目を迎える「ワールド・チャイルドレス・ウィーク・イン・ジャパン」。
「子どものいない未来を生きるとは」と題した今年、特別講演として、社会学者の上野千鶴子先生をお招きし、お話を伺いました。
上野千鶴子先生は、長年、日本の介護の現場で研究を進められていて、著書も多数出版されています。
また、上野先生自身も子供がいない人生を歩んでいらっしゃるということもあり、今回は特にその立場からのお話もうかがいました。（その立場で講演することは滅多にないとのことです）

社会構造や歴史といった大きな観点からのお話に始まり、私たちの将来を見据えた「在宅ひとり死」の「可能性」を提唱されるという、多面的、かつ「縦横無尽」といえるような1時間でした。

◆子どものいない生きづらさの背景にある「家父長制」は女性も支えてきた！

まず、子供の有無を軸とした最近の社会的な動きについて説明。その後、子供がいない女性の生きづらさについて、歴史的、社会的な観点から解きほぐしました。

根底にある原因は、家父長制です。「家」を子ども（長男）が代々継いでいく制度です。
この家父長制は、男性の特権的地位を維持するものと捉えられますが、実は女性もその維持に加担してきたと上野先生は説かれます。家父長である男性より地位が低い「妻」は、子どもを次の当主にすえることによって、「皇太后権力」を得ることができるからです。

日本においては、歴史的にその子どもは、必ずしも自分の腹を痛めた子どもではありませんでした。養子などで外から調達可能なものだったのです。
ところが近年の生殖技術の発達により、「子どもを産むべき」という圧力がかえって高まることになったのが現代社会なのです。

日本の社会構造のお話もさることながら、大変興味深かったのは、上野先生ご自身も、過去に子どもがいない事について、家族や親族から差別的とも言えるような言葉を投げかけられたと言う体験談です。そして、そんな場合にどう対応したらよいかも指南いただきました。

◆子どものいない将来は「一人でいられる時間が持てる」将来である

では、子どものいない人の老後についてはどうでしょう？「孤独死」「老後破産」などといった情報があふれていて、いたずらに将来への不安が掻き立てられます。ひと様に迷惑をかけ、肩身の狭い、そしてつらく苦しい老後になるのではないだろうか？…これまでの人生を切り開いてきた人であればあるほど、そんな不安を強く抱いてしまいます。

しかし、先生は、心配は無いとおっしゃいます。「介護保険制度を活用することで、不安のかなりの部分を解消できる！」先生の実地調査にもとづいたデータや事例により、納得することができました。

「家族に囲まれて過ごす老後が幸せ」ということ自体が思い込みであるということにも気づかされました。
「一人でいたい時に一人でいられるスペースがないほうが、むしろ不幸と言うのではないか？」先生の問いかけに、はっとさせられました。
その観点から考えると、自宅で一人、死ぬことを「孤独死」と呼ぶのは、ネガティブな側面だけを強調したバランスの悪い呼び方といえます。「在宅一人死と呼ぶ方が適当だ」と、先生は主張されます。

◆私たちが取り組むこと

最後に質疑応答の時間が設けられ、上野先生の舌鋒鋭い中にも温かさのあるアドバイスが展開されました。
これから老後を迎える私たちに必要なのは、自分がどういう生き方、死に方をしていきたいのかを明確にしていくこと、そしてその中で最もゆずれないものは何なのかを自分の中に問い続けることと感じました。

理想は、いろいろな不確定要因があって描きにくいのが現実。その点。「最低限これだけは」は比較的、描きやすいように思います。
そのうえで、まずは自分が取り組まなくてはならないこと、取り組んで成果の出やすいことを優先し、タイミングが来るまで放っておいたり、他人に任せることを自分に許してよいように感じました。

上野先生は、いま75歳。すでに自分の「ゆずれない線」を明確にされ、それをもとに備えていらっしゃるという印象を受けました。50代を中心とした今回の参加者は、まだそこまでの境地には至らず、多くの人がこれからを模索中です。
生き方は、正解がない。だから1人で考えているとつい隘路にはまってしまいがち。だからこそ、今回のように先輩の話をうかがったり、仲間同士で語り合ったりすることで、徐々に明らかになってくるものではないか、と感じました。
その点でも、WINKの取り組みについての意義を再確認させてもいただけました。

上野千鶴子先生の講演、見逃された方向けにアーカイブ動画をご用意しています（有料）。
こちらから、お申し込みください。販売期間は10月22日（コンビニ支払いは21日）までですのでお早めに！

▼上野千鶴子氏 講演「子どものいない将来をどう生きるか？」～World Childless Week in Japan 2023～
https://wink2023-ueno-special.peatix.com/
【お申込み期間】2023/9/20～2023/10/22
【動画視聴可能期間】2023/9/20～2023/10/31
【金額】2,500円