World Childless Week(WCW) 2024 in Japan レポート

2024.09.30

#WorldChildlessWeek#生涯子供なし

9月9日から1週間、今年も「World Childless Week(WCW)」を開催しました。
ご参加いただいた方には、改めてお礼申し上げます。

今年の日本版WCWのテーマは「#生涯子供なし」。
OECDが発表した「1970年に生まれた女性の50歳時点での無子率は、日本が先進国でもっとも高い」という結果が発表されました。SNS等で大きな反響を呼んだ、このハッシュタグをテーマに取り上げました。結果として多様な視点から、「無子化」の進む日本という「国」を考える1週間になったように思います。

各日のテーマは、冒頭の表のとおりです。

順不同ですが、話された内容をご紹介します。

■「子が親の面倒を見る」のは世界標準ではない!?
「子どものいない人」がシニアの年代になるにつれ、多くの人が「将来、もし身心が不自由になったら、誰が面倒を見てくれるのだろう?」と言う不安を抱くようになります。
その背景には、日本では、「親の面倒は子どもがみる」という規範があります。

しかし、それは必ずしも世界から見ると「常識」ではないことがわかりました。

9月12日は、WINKo Lab.{https://wink.jp.net/wp/winko-lab/}メンバーのデーコン雅子さん、タバ幸枝さんのお二人に、それぞれイギリス、イタリア両国の高齢者介護についてお話をうかがいました。

ロンドン郊外に住む雅子さんからのお話では、「親の介護を子どもが直接行うことはあまり聞かない」「高齢者は施設に入ることが多い。自宅にいても夫婦か一人暮らしで、子どもとの同居は聞かない」とのこと。その背景には、「子どもと親は別人格」と欧米の文化がありそうです。

イタリアは、親と子が同居したり近所に住んでいたりすることが多いとのこと。欧米の中では、日本と親子の距離感が近いと思われます。ただ、幸枝さんの住む中部のペルージャのあたりでは、高齢者介護は家事代行の人(介護の専門スタッフではない)に任せることがほとんどとのことでした。地方ごとの差が大きいイタリアでは地域差があるかもしれませんが、全体として日本とやや事情が異なるようです。

幸枝さんが見聞きした、「家政婦」は、多くは外国から出稼ぎに来ている人とのこと。他人が家に入って家事をすることへの抵抗感はそれほどない、というのも日本との違いを感じます。

■「日本人か、日本人でないか」と分けるのが日本!?
「出稼ぎ」で驚かされたのは、9月14日にドバイから登壇されたボレンズ真由美さんのお話です。

ドバイの人口は約360万人ですが、人口は、2040年に580万人まで増加すると言われています。その増加を担っているのが「出稼ぎ」労働者。ドバイ政府も積極的に外国人労働者を呼び込んでおり、ドバイの人口のうち90%以上が外国人とのこと。

経済が好調ということもあるのでしょうが、外国人を呼び寄せるための政策も充実しさせています。所得税がないほか、「ドバイ2040都市マスタープラン」を制定。交通網の充実や緑化など住環境の整備を拡充させているとのこと。

「お金を稼げることも大事だけれど、外国人にとって住みやすい社会か、と言うのも大事なポイント。自分はこれまで日本、カナダ、中国、シンガポールと暮らしてきたが、子どもがいないことへの違和感を全く感じさせられないのはドバイが初めて」と真由美さんは語ります。

真由美さんと並んで、オーストラリアから登壇したチャップマン華奈子さんも、外国人受け入れの文化的素地を指摘します。「日本は、日本人とそれ以外と区分けする国」という一説が以前に呼んだ本に書かれていて、納得したと話されていました。

オーストラリアは、政府が規制するほど移民希望者が多い国です。そこには、「他人は他人として必要以上に関与しない」という姿勢が浸透しているからと言う印象を持ちました。

もちろん、出稼ぎ労働者や移民などの問題は一口で良し悪しを図れるものではありません。が、「自分とは異なるものを受け入れる」文化は、「子どもがいない」人の存在を多様性の中の一つとして受容するか否かに通じることのように思います。

■日本のローカルに強い「女性は子どもを持つもの」バイアス
海外からの人に限らず、慣習から生まれたバイアスによる高い壁があるのが日本、特にローカルエリアの特徴かもしれません。9月13日の「ローカルから語る」セッションでは、「働きたい女性」「結婚や子育てに関心のない女性」に対する障壁の高さについて、北海道からの登壇者によって語られました。

現在、釧路在住の須藤か志こさんは、「ドット道東」いう団体でエリア情報の発信活動に従事していらっしゃいます。アラサーですが、結婚や子どもを持つ志向は極めて薄いとのこと。にもかかわらず、周囲は結婚や子どもを持つものとして期待されているのに違和感を覚えるそうです。
「女性が、都会から戻って自分の生まれたエリアで働きたいと思っていても、周囲や企業からは『結婚の予定は?』『子どもはいつ頃?』など、仕事とは関係ないことばかり聞かれる」と指摘。その結果、やる気を殺がれてしまう女性たちは、地元から去ってしまいます。

こうした「自分らしく働きたい」とい女性の声は、「女性は子どもを育てたいはず」という強いバイアスのもとで見逃されてきました。そんな現状をなんとかしたい、と活動しているのが、山田彩子さんです。山田さんは、札幌を中心とした企業に働く女性の異業種ネットワーク「北海道ミモザプロジェクト」の代表を務めていらっしゃいます。

「女性活躍推進」が叫ばれてしばらくたちますが、それらの多くは「ワーキングマザー支援」や「管理職候補育成」に偏りがち。“そうじゃない”女性から声をあげることで、女性の多様性を示したいとのこと。それぞれが自分らしい生き方をしている多様な女性の姿は、ローカルで働こうとする後輩たちにとって、なにより安心材料となり、励みにもなるのではないか、と山田さんは語ります。

■書籍「#生涯子供なし」の背景にある思い
これまで考えてきた国の文化の違いや制度等の視点で、日本の「無子化」について書籍を通じて問題提起をしたのが、日経新聞の福山絵里子記者です。
福山さんは、長年、社会保障制度改革、少子化問題などを国・行政・企業側と生活者と多面的に追及されてきました。今年5月に刊行された「#生涯子供なし なぜ日本は世界一、子供を持たない人が多いのか」その集大成ともいえます。

実は、福山さんは、「#生涯子供なし」をテーマに本とすることにはジレンマがあったそうです。子どもがいなくても幸せな人生を歩む人はたくさんいる。本にすることで、あたかも「子どもがいない」ことが問題であるかのように偏った捉えられ方をするのではないか…、そんな懸念も抱かれていました。

それでも書籍刊行を決められたのは、無子化の背景にある国や社会に対する強い問題意識があったから。特に女性に対する政策については、「怒り」と言って良いほど強い問題意識をお持ちです。

福山さんの思いと主張については、ぜひ、ご著書を読んでいただきたいと思います。当事者の声も取り上げつつ、「日本」の政治や経済といったマクロ視点からの問題の指摘にうなずかされます。

■「国を動かす」可能性
非難にとどまらず、国を動かす取り組みを続け、実際に成果を勝ち得たのが、9月11日に登壇いただいた松本亜樹子さんが設立した「NPO法人Fine」です。

不妊治療に保険が適用されるようになったのは2022年とまだ記憶に新しいところです。NPO法人Fineさんは、保険適用を求めておよそ16年以上にわたり、毎年、2~3万筆の声を集め、署名・請願活動を続けてこられました。

いまでこそ、ネットで署名は容易に集められるようになりました。が、10年以上前は紙に一つ一つ名前を書く方法だったでしょう。集める困難さは、今の比ではなかったと思います。「なぜ、そこまで活動を続けてこられたのか?」という問いに対し、松本さんは「仲間の存在」をあげられました。NPO法人のメンバーであり、なんとか不妊治療を受けやすい世にしてほしいと願う人たちの存在です。

国や社会というと、とてつもなく大きな壁のように感じてしまいますが、私たちも連携することで、壁に穴をあけ、問題を解決していくことができる可能性があることをFineさんの取り組みから知ることができました。

■これからに思うこと
福山さんの書籍では子どものいない人の老後問題にも触れられています。私たち(一社)WINKでは、そうした将来不安をお互いに学びながら対策を共に取り組む「WINKo Lab.」を運営しています。この活動も、将来不安を解決することにつながるのでは、という意を強くしました。

「#生涯子供なし」で見えてくる問題は山積しています。しかし問題意識を共にする人と、こうして語り合うことがその解消の一歩となるのではないかと思います。WCWが、これからもそうした場になれば幸いです。

以上