私は男性だから女性だからということよりも、政権を血で継いでいく限り、どの将軍にとっても大奥は悲しい場所だということを描きたかったんです。性別を問わず彼らは将軍職を継ぐ子どもを作る義務を背負っていますから。
(よしながふみ 漫画「大奥」作者 「好書好日」(2021.02.23)より)
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NHKドラマ、「大奥」が最終回を迎えました。
江戸時代、若い男性が罹る疫病により男性の人口が激減したことにより、男女の役割が逆転したというシチュエーションのこのドラマ。私は原作の漫画から大ファンでした。歴史SFという面白さもさることながら、ジェンダーや少子化に伴う現代的な課題について問題提起が非常に興味深く感じたからです。
ドラマでは「子供を産む」ということについて特にフィーチャーされていたように思います。特に私が印象的だったのは、5代将軍綱吉と右衛門佐(うえもんのすけ)が主人公となった回です。
仲里依紗さんが演じる綱吉は、たった1人の我が子、松姫を幼いうちに亡くしてしまいます。悲しみに浸る間もなく、自分を慈しみ育ててくれた父、桂昌院から世継ぎを産むようにと強く迫られ綱吉は子作りに励みます。しかし、なかなか子に恵まれず、焦りもあってか表の政治面でも歯車が狂い始め、世間からの評判を落としていきます。
もともと学問好きであった綱吉は、君主の理想の姿を自分なりに描いていました。しかし、親である桂昌院からは将軍としての政治の舵取りよりも、その血をつなぐ子どもを産むことでしか自分の価値を認められません。本を読んでいると「本など読むと目が悪くなって器量が落ちる」とまで言われます。
血筋を残すと言うことへの呪縛から逃れられず、子作りに励む彼女のことを、正室や側室は、「上様はお好きだからな」と揶揄します。血筋を残そうという彼女の努力は、将軍の役割を果たそうとする努力として認められないのです。
同じようなことは現代でもあります。
子どもを産んでない人が仕事や趣味に励んでいると、「子どもがいないから好き勝手にできる」という言われ方をします。
私の知人に、とても優秀で社会的地位もあり、人格的にも素晴らしい方がします。しかし彼女は、かつて「子どもがいれば完璧なのに」と言われたことがあったそうです。つまり、子どもがいないということは、それほど大きな欠落とみなされているのです。
WINKの活動を通じて出会った人からも、「孫の顔を見せられなくて親に申し訳ない」という声をよく聞きます。子を産むことで血筋をつなぐということが、自分自身を縛る呪いとなっているといえるのではないでしょうか。
そんな綱吉を最も理解していたのが、大奥取締役の右衛門佐です。公家出身の彼は、貧しい実家のために、希少となった男子として、自らが他家の種馬として務め収入を得ていた経験があります。
どんなに学問をしてもそれは認められず、種馬として役に立ったということだけで、実家から感謝されたりされた経験が彼にもあったのです。
少子化の中で、ややもすると子供を産んでるか産んでいないかで、まるで人格をのものを評価されるような制度や仕組みが作られる気配もあります。生む、生まないの差で個人の尊厳を損なうような社会にしないよう、私たちは制度やシステムについて感度を上げていかないと思っています。
WINKが、社会制度について学ぶことを続けているのは、そういった意図もあります。
そんな物語の中で、非常に希望の持てたのが、最終回の吉宗と杉下の関係です。吉宗のもとで大奥取締役となった杉下は、「種なし」でした。しかし彼は、吉宗の子どもや孫たちに「父上」「じじさま」と慕われる関係を築きました。
実の子供ではなくても、慈しみ育てることはできるという可能性を示してくれています。むしろ実の親子関係にかかわらず、だれもが次世代を育成する仕組みや制度をつくっていくことが、これからの社会に必要なのではないか、と、このドラマで問いかけていたように思います。
※画像はNHK公式サイトより